画像生成AIで「水墨画風の竹林」とだけ打ち込んでみると、だいたい2パターンの結果が返ってきます。ひとつは灰色の水彩イラスト。もうひとつは、画面のすみずみまで竹がびっしり描き込まれた「墨っぽいけど息苦しい絵」です。……あれ、水墨画ってこんなんだったっけ??となるわけです。
水墨画らしさって、実は「黒で描いてあること」ではなく、墨の濃淡・筆のかすれ・描かない余白の3つでほぼ決まります。AIはこのあたりを指定しないと、なんとなく“きれいに埋めた絵”を返してくるんですよね。
この記事では、非デザイナーでもコピペで使えるAI水墨画のプロンプトを、日本語と英語のセットで紹介していきます。MidjourneyとNano Banana(Gemini)のどちらでも使える書き方を基本にして、ツールごとのちょっとしたクセ、よくある失敗の直し方まで一気にまとめてみました。
「水墨画風」だけではダメな理由
まず前提として、AIは「水墨画」という言葉をちゃんと知っています。ただ、知っている“水墨画っぽさ”の幅がめちゃくちゃ広いんです。中国の山水画、日本の禅画、墨のにじみを生かしたモダンなイラスト、筆ペンで描いた年賀状のイラスト……このあたりが全部ごちゃっと混ざった平均値が出てきます。
和樂webの水墨画解説では、水墨画は線だけでなく墨を面的に使い、ぼかしで濃淡・明暗を表現するのが大きな特徴で、西洋画のように光源を固定した背景を描かない点も特徴のひとつだと説明されています。伝統的な水墨画では、対象の本質や筆墨の表現、余白を重視する作品が多く見られます。写実的な光と影や背景の描き込みを控えると、そうした作風に近づけやすくなります。
引用:和樂web「えっ、これを墨だけで描いてるの!絵師の巧みな技とともに水墨画を解説!」
https://intojapanwaraku.com/rock/art-rock/9711/
ところがAIは、放っておくと光をきれいに当てて、背景もきっちり埋めようとします。なので、プロンプトでは「何を描くか」と同じくらい「何を描かないか」を伝えるのがポイントになります。
筆者
「水墨画風」って書いたのに色が付いてくるの、地味にストレスなんですよね……。
水墨画っぽさを決める4つの要素
アメリカのAI画像生成サービスMorphicの英語版ページでは、sumi-e(墨絵)をプロンプトで表現するには複数の要素を名指しすることで「ごちゃっとした墨のイラスト」ではなく墨絵として読める結果になる、と説明されています。筆者なりに整理すると、押さえるべき要素は次の4つです。
引用:Morphic「Sumi-e ink painting AI images」
https://morphic.com/resources/images/sumi-e-ink-painting-images
① 墨の濃淡(墨に五彩あり)
水墨画の世界には「墨に五彩あり(墨分五彩)」という言葉があります。墨の濃淡や乾湿などの変化によって多彩な表現を生み出す考え方で、中国の美術メディア雅昌芸術網の記事でも、墨の使い方を5つの層で捉える考え方として紹介されています。五つの分類には諸説があり、焦墨・濃墨・重墨・淡墨・清墨と説明されることもあります。一色なのに色彩があるように見えるのが、水墨画の醍醐味ですね。
引用:雅昌艺术网「《墨分五彩》提要」
https://m-news.artron.net/news/20260802/n358771.html
AIへの指定としては、濃墨から淡墨までのグラデーション(英語:varying ink density from deep black to pale grey wash)のように「幅」を伝えるのが効きます。アメリカのプロンプトギャラリーCaratでも、「Shades of black and gray」「Ink wash gradients」「Varying ink density」といった語彙を使い、「Monochromatic」を明示すると余計な色が入りにくいとアドバイスされています。
引用:Carat「Ink Wash Painting | Prompt Gallery」
https://carat.im/en/prompt-gallery/ink-wash-painting
② 筆致(にじみ・かすれ)
次に効くのが筆のタッチ。墨が紙にじわっと広がるにじみと、筆の墨が少なくなって白く掠れるかすれ(渇筆・飛白)です。英語プロンプトでは dry-brush texture、broken brushstrokes、flying-white texture あたりが基本の言い方です。前述のMorphicのページでは「kasure dry-brush flying-white texture」のように名指しで指定し、シリーズ全体で同じ言葉を使い回すと質感がそろえやすい、と紹介されています。日本語の「kasure」は補助的に添えるくらいの扱いがおすすめです。
③ 余白(描かない勇気)
ここが一番大事です。水墨画は余白がそのまま霧になったり、水面になったり、空になったりします。AIに任せると埋めにかかるので、画面の上半分は何も描かない白い余白(英語:the upper half left as empty white paper)くらい具体的に書いちゃいましょう。「余白多め」よりも「どこを空けるか」を書くほうが、AIに意図が伝わりやすくなります。
④ 紙と落款
最後に仕上げの要素として、和紙(rice paper)の質感と、赤い落款(印章)。モノクロの画面に小さな朱色がひとつ入るだけで、一気に“作品感”が出ます。ただし落款は文字化けしやすいので、後述の失敗パターンもあわせて読んでみてください。
コピペで使える基本テンプレート
上の4要素をまとめた基本形がこちら。【】の部分だけ差し替えればOKです。
日本語プロンプト【霧の中の山と一本の松】を描いた伝統的な日本の水墨画。墨一色のモノクロ、濃墨から淡墨までのグラデーション、にじみとかすれのある筆致、画面の【上半分】は何も描かない白い余白、和紙の質感、右下に小さな赤い落款。英語プロンプト(海外サイト用)Traditional Japanese sumi-e ink wash painting of [a lone pine tree on a misty mountain], monochrome black ink only, varying ink density from deep black to pale grey wash, expressive brushstrokes with soft bleeding and dry-brush texture, the [upper half] left as empty white paper, textured rice paper, a small red seal stamp in the lower right corner


ちなみに「日本の水墨画(sumi-e)」と「中国の水墨画(Chinese ink painting / shuimo)」は、AIの中でもちょっと別物として扱われています。Morphicのフランス語版ページでは、中国の水墨画は霧のかかった山水や文人のモチーフに寄り、日本の墨絵はより簡潔で、少ない決定的な筆致で成り立つ禅の伝統だと説明されています。
引用:Morphic(フランス語版)「Images IA de peinture à l’encre chinoise」
https://morphic.com/fr/resources/images/chinese-ink-wash-images
もちろん、日本の水墨画にも壮大な山水画はありますし、中国にも簡潔な作品はあるので、これは国ごとの定義ではなくプロンプト上の目安です。山水画を中心にしたい場合は Chinese shan shui ink landscape、簡潔な筆致や禅画の雰囲気を出したい場合は Japanese sumi-e など、目指す作風を具体的に指定してみましょう。
題材別AI水墨画プロンプト集
山水画(壮大な風景)
日本語プロンプト中国の伝統的な山水画。霧の中にそびえる険しい峰々、曲がりくねる川に浮かぶ小舟と釣り人、遠景ほど淡くなる墨のぼかし、峰の間は霧として白い余白で表現、縦長の掛け軸構図、墨一色、宣紙の質感。英語プロンプト(海外サイト用)Traditional Chinese shan shui ink landscape painting, towering misty peaks, a tiny fisherman in a small boat on a winding river, distant mountains fading into pale ink wash, mist rendered as untouched white paper between the peaks, tall vertical hanging scroll composition, monochrome ink only, xuan paper texture


竹・梅・蘭・菊(四君子)
ドイツ・ベルリンの墨絵ワークショップ紹介では、竹・蘭・菊・梅の「四君子(Vier Edlen)」が定番のモチーフとして挙げられ、「竹を描くなら竹になれ」という古い言葉も紹介されています。描き込みではなく本質をつかむ、という考え方はプロンプトにもそのまま使えます。
引用:Berlin.de「”Sumi-e” – Japanische Tuschemalerei」
https://www.berlin.de/tickets/bildung-vortraege/sumi-e-japanische-tuschemalerei/
日本語プロンプト風に揺れる三本の竹を描いた日本の墨絵。数本の迷いのない筆致で描いた幹、素早い濃墨の筆で払った葉、竹と竹の間に広い余白、画面の左3分の2は何も描かない白い和紙、墨一色、小さな赤い落款。英語プロンプト(海外サイト用)Japanese sumi-e painting of three bamboo stalks bending in the wind, stems drawn with a few confident strokes, leaves flicked with quick dark brushstrokes, wide negative space between the stalks, the left two-thirds left as empty white rice paper, monochrome black ink, a small red seal stamp
動物(虎・鶴・鯉)
日本語プロンプト岩の上で吠える虎の水墨画。顔と目は濃墨で細かく、胴体と尾は大胆な筆の一振りと飛び散る墨で表現、下半身は淡墨のにじみに溶けていく、背景は描かず白い余白、墨一色、和紙の質感。英語プロンプト(海外サイト用)Ink wash painting of a roaring tiger on a rock, face and eyes detailed in dense black ink, body and tail formed by bold sweeping brushstrokes and ink splatter, lower body dissolving into pale bleeding wash, no background, empty white paper around the subject, monochrome ink, rice paper texture

動物は「顔だけしっかり、体は崩す」と指定するのがコツです。全身をきっちり描かせると、どうしても墨で塗った図鑑イラストになってしまいます。
人物(後ろ姿の旅人・侍)
日本語プロンプト番傘をさして雨の山道を歩く旅人の後ろ姿を描いた墨絵。人物は小さく画面の右下、着物は数筆のかすれた筆致、遠くの山と雨は淡墨のにじみ、画面の大部分は白い余白、墨一色、小さな赤い落款。英語プロンプト(海外サイト用)Sumi-e ink painting of a lone traveler seen from behind, holding a paper umbrella on a rainy mountain path, small figure placed in the lower right, kimono drawn with a few dry-brush strokes, distant mountains and rain in pale bleeding wash, most of the frame left as empty white paper, monochrome ink, a small red seal stamp

人物は顔をアップにするとリアル寄りになりやすいので、後ろ姿・小さく配置が水墨画との相性抜群です。
現代モチーフを水墨画で(ここが一番楽しい)
Caratのギャラリーでも、現代的なモチーフや西洋の題材をあえて水墨画で描くのが人気の使い方だと紹介されています。ブログのアイキャッチやSNS用の画像なら、こっちのほうが目を引きます。
日本語プロンプト夜の東京の高層ビル群と雨の交差点を描いた水墨画。ビルは墨の太い縦の筆致で、信号と車のライトは淡墨のにじみで表現、空は白い余白、色は使わず墨一色、和紙の質感、伝統的な山水画の構図で描いた現代の都市。英語プロンプト(海外サイト用)Ink wash painting of Tokyo skyscrapers and a rainy intersection at night, buildings drawn with bold vertical ink strokes, traffic lights and car headlights rendered as pale bleeding ink, sky left as empty white paper, no color, monochrome ink only, rice paper texture, a modern city composed like a traditional shan shui landscape

MidjourneyとNano Bananaで書き方を変えるコツ
Midjourneyの場合:パラメーターで「引き算」する
筆者の使用感では、Midjourneyは放っておくと“盛る”傾向があるので、水墨画では逆にパラメーターで引き算していくイメージで使っています。ただし、どれも水墨画になることを保証する設定ではないので、まずはプロンプト本文でモノクロや余白をしっかり指定するのが前提です。
--no 3d, photo:不要な要素を除外する指定。--no colorも試せますが、意図しない色味を完全に防げるわけではないので、本文のmonochrome black inkとセットで使いましょう--ar 9:16や--ar 1:3:縦長の構図にすると掛け軸っぽい雰囲気を出しやすくなります--s 50前後:stylize(スタイルの強さ)を下げる設定。派手な仕上げが抑えられることがありますが、結果は題材次第です--raw:Midjourney標準の作風の影響を弱めたいときに試す価値ありです
日本語プロンプト(Midjourney用の考え方)竹林の水墨画、墨一色、濃墨から淡墨までのグラデーション、表情のある筆致、墨のにじみ、かすれ、広い余白、画面の上半分は白い紙のまま、和紙の質感 --ar 9:16 --s 50 --raw --no 3d, photo英語プロンプト(海外サイト用)sumi-e ink wash painting of a bamboo grove, monochrome black ink, varying ink density from deep black to pale grey wash, expressive brushstrokes, soft ink bleeding, dry-brush texture, generous negative space, upper half left as empty white paper, rice paper texture --ar 9:16 --s 50 --raw --no 3d, photo
Nano Bananaの場合:文章で「やらないこと」を伝える
Nano Banana(Gemini)は、Midjourneyのような専用パラメーターよりも具体的な文章での指示で調整していくタイプです。フランス語圏向けのMedia.ioのGemini用sumi-eプロンプト集でも、主題・舞台・筆のスタイル・余白の4つに絞ってシンプルに書くのがコツだとされています。
引用:Media.io(フランス語版)「25+ Idées de peinture à l’encre Gémeaux AI Sumi-e」
https://www.media.io/fr/ai-prompts/gemini-ai-sumi-e-ink-painting-prompt.html
Nano Bananaでは、文末に「やらないことリスト」を一文で添えると、意図が伝わりやすくなります。
日本語プロンプト(追記用)色は一切使わず、墨の黒と紙の白だけで描いてください。写真のような光と影、3DCGのような質感、背景の細かい描き込みは入れないでください。英語プロンプト(海外サイト用)Use only black ink and the white of the paper, with no color at all. Do not add photographic lighting, 3D CGI textures, or detailed background elements.
ホントによくある失敗と直し方
ドイツ語圏向けのプロンプトライブラリYouMindで公開されている禅系の水墨画プロンプトでは、ネガティブプロンプトとして「漫画・アニメ・3Dレンダー・過度な彩度・透かし・ロゴ・ごちゃごちゃした背景」などが並んでいます。裏を返せば、水墨画を生成するとこのあたりが混ざりやすいということですね。
引用:YouMind(ドイツ語版)「Zen-Tuschemalerei Sumi-e Kunstwerk」
https://youmind.com/de-DE/prompts/zen-ink-wash-sumie-artwork-27541
| 失敗パターン | 直し方 |
|---|---|
| うっすら青や茶色が入る | 「墨一色」「monochrome ink only」を本文で明示し、Midjourneyなら --no color も試す |
| CGっぽい・立体的になる | 「写真」「リアル」「光」系の単語を削除し、「平面的な筆致」「flat brushwork」を追加 |
| 画面がぎっしり埋まる | 「余白多め」ではなく「上半分は白い紙のまま」など場所を指定 |
| 落款が謎の文字になる | 「文字のない赤い印」「blank red seal」にするか、落款は削除して後から自分で入れる |
| 筆ペンイラストっぽい | 「にじみ」「淡墨のぼかし」を足して、線だけでなく面の表現を増やす |
特に落款の文字化けは、筆者的に「あるある」の筆頭です。それっぽい漢字風の何かが入るんですが、よく見ると存在しない文字……。ブログやSNSで使うなら、AIでは無地の赤い印だけにしておくのが無難です。
もうひとつ注意したいのが作家名の扱い。特定の作家の名前を使って画風を指定する方法もありますが、権利や倫理面への配慮が必要です。画風を参考にすること自体が直ちに著作権侵害になるわけではありませんが、生成画像が既存作品に似すぎている場合などは個別の検討が必要になります。文化庁も生成AIと著作権に関する考え方を公表しているので、気になる人は一度目を通しておくと安心です。
引用:文化庁「AIと著作権について」
https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/aiandcopyright.html
筆者としては、作家名を使わずに「禅画風」「室町時代の水墨画の雰囲気」「かすれた筆致と大胆な余白」など、具体的な特徴で指定する方法をまず試してみるのがおすすめです。
ちなみに中国語の解説記事では、ComfyUIとFLUX、水墨画向けのLoRAを組み合わせた制作例も紹介されています。本格的にやり込みたい人はローカル環境という選択肢もありますが、まずはこの記事のプロンプトで十分それっぽいものが作れます。
引用:ComfyUI.org(中国語版)「使用AI驱动的FLUX解锁中国水墨画的奥秘」
https://comfyui.org/zh/chinese-ink-painting-with-flux
まとめ
AIで水墨画を生成するときは、「水墨画風」の一言に頼らず、水墨画らしさを分解して伝えるのが近道です。押さえるべきは、墨の濃淡(墨に五彩あり)、にじみとかすれの筆致、描かない余白、和紙と落款の4つ。とくに余白は「多め」ではなく「画面のどこを空けるか」まで具体的に書くと、AIが絵を埋め尽くしてしまう失敗を減らしやすくなります。
- 基本は「題材+墨一色+濃淡+筆致+余白の場所+和紙・落款」の順で組み立てる
- 山水画なら shan shui、簡潔な禅画風なら sumi-e など、目指す作風を具体的に指定する
- モノクロ指定はまずプロンプト本文で行い、Midjourneyでは
--noや--rawを補助的に使う。Nano Bananaは文章で「やらないこと」を伝える - 落款は文字化けしやすいので無地の赤い印にするか、後から自分で入れる
- 作家名に頼らず、時代・様式・筆致などの具体的な特徴で雰囲気を指定する
水墨画は情報量を減らすほど作品っぽくなる、ちょっと不思議なジャンルです。盛り込みたくなる気持ちをぐっとこらえて、まずは基本テンプレートの【】部分を好きな題材に入れ替えるところから試してみてください。